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イラン・ガズヴィーン~アラムート~タブリーズ旅行~その7(アラムート城・その1)

ガズヴィーン からアラムート城の登り口までやってきた。
11:03、車はここまでしか入れない。車を降りる。
Dsc01285aここは案内所か何かだろうか?冬は閉鎖しているみたいだ…。Dsc01286aここで、アラムートが東方見聞録にどのように記述されているのか、見てみよう。
「ムヘレットはその昔、「山の老人」の住んでいた国である。…以下マルコ・ポーロ氏が多くの人々から語り伝えられたままに、この老人の話を残らず述べる事にする。
…両山脈に挟まれた峡谷中に、彼はとても壮大美麗な庭園を造り、…彼がこの宮苑に現出せしめたかかる光景こそは、マホメットがその教徒に説いた天国の境地、すなわち天国に生まれたるものは葡萄酒・牛乳・蜂蜜・淡水の流れを眺め、思いのままに美女を手に入れ心行くばかりの快楽に耽ることができるという、まさにその通りのありさまだったからである。…
ところでこの宮苑に入る事を許される者は誰かと言えば、それはただこの老人が見込んでそれを刺客に仕立てようとする若者だけに限られていた。
…老人は昏睡する若者たちをくだんの宮苑内に移し入れ、しかる後目覚めるのを待つのである。
若者たちは眠りから覚めると、…さてこそ自分たちはまさしく天国に来たのだと信じ込む。美女たちはかたわらに侍って音楽を奏し歌を歌い、珍味佳肴の饗宴に給仕する。若者たちはこれら美女を相手に存分の快楽を享受する。…この宮苑を去りたいなどとはつゆほども望まないのである。…
老人が部下をどこかに派遣して誰かを暗殺せしめようとする場合、…薬を盛られた若者が昏睡状態に陥るのを待って、彼らをその宮廷の中に運ばしめる。
若者たちは眠りから覚めると、…大いに驚き、必ずがっかりする。
…「山の老人」は…刺客達に向ってこう諭告する。「もう一度お前たちをあの天国にやってやりたいと思うから、特にお前たちを選んでこの使命を託するのだ。さあ行け。ただ某々を殺しさえすればよいのだ。万一お前たちが失敗して死ぬような事があっても、そのまままっすぐ天国に行ける事は疑いない」
…刺客達は、…何事であれ老人の命ずるままにそれを遂行する。
かくして老人に狙われたが最後、だれであれその死を逃れる事はできなかった。数多くの国王・領主たちが老人に殺されはしまいかと恐れるのあまり、彼に貢物を納めて友好関係の維持に汲汲としていたのは紛れもない事実だったのである。」

ムヘレット国とは11~13世紀、アラムートを根拠地とし北イランを領域としたムラーヒッド朝というイスラム国家を指す。多くの刺客を抱えていたのも事実で、数多くの国王、領主がその毒牙にかかった。主要な国王・宰相だけでも120年のうちに14名。中にはセルジューク朝の大宰相、ニザーム・アル・ムルクや、十字軍のトリポリ伯レイモンド、エルサレム王コンラッド・ドゥ・モンフェラという大物もいる。
ではなぜ刺客をもって次々と各国の元首を狙ったのか。
それはムラーヒッド朝の根幹となる宗教と関係がある。ムラーヒッド朝は最高指導者が教主である宗教国家だが、その宗教はニザール派といい、イスラム教シーア派の一派、イスマイール派のうちシリア・イランに勢力を伸ばした宗派であった。イスラム教とはいえ、多数勢力であるスンニ派から見ればシーア派というだけで眉をひそめるのに、シーア派の中でも過激な思想を信奉しており、スンニ派やシーア派穏健派から見れば異端としか言いようのない宗派だった。
何が異端とされたのかというと、詳しくは後述するが、イマーム(シーア派から見たイスラム教最高指導者)と呼ばれる教主を天上の神が地上に顕現されたものとして扱い、それゆえ神の預言者、つまりは単なる人間にしか過ぎないイスラム教の創始者ムハンマドより上に置いた事による。預言者ムハンマドと神の言葉であるクルアーンを唯一絶対的なものと信じるスンニ派には受け入れがたい事だった。シーア派穏健派から見れば、イマームの存在は認めるものの、イマームがほとんど神と同じ存在という所には抵抗がある。イマームはムハンマドの血脈としてその霊性を受け継ぐ者であり、神ではないのだ。
そんな異端の彼らが生き残り、派閥を拡大していくには、堅固な要塞に立て籠もり、その教えは秘教として隠匿する必要があった。そして彼ら以外の宗派、キリスト教は言うに及ばずスンニ派もシーア派穏健派も、聖なる彼らにとっては聖に反するものであり、敵であった。
そのような状況で布教するには、敵の宗教の庇護者を暗殺し、他宗派の民衆に畏怖を与える事が必要だった。従って暗殺の目標の多くも、キリスト教徒というよりはスンニ派やシーア派穏健派の中心人物になった。聖地奪還に燃えるキリスト教徒は改宗せず、当然のことながら同じイスラム教徒の方が改宗させやすかったからである。このようにして他宗派の民衆を取り込んでいったのである。その為、ムラーヒッド朝は暗殺を目的としたのではなく、より多くの民衆を教化し、勢力を拡大する手段として暗殺を行ったのである。
また、東方見聞録に、刺客となる若者を昏睡させる薬が出てくるが、これはハシシュという大麻だと言われている。一方暗殺者の事をアサッシンassassinと言うが、これはハシシュhashishが語源になっているとされている。東方見聞録に出てくる話は、当時から西洋で広く流布されており、この話からアサッシンという言葉が生まれた。
彼ら暗殺者は、目標となる人物が住む地域の言葉、習俗、宗教を教え込まれ、時には召使として、時には修道士になりすまし時機が到来するまでじっと待ち続けるのである。その間、周りの誰も暗殺者だとは気付かない。そして緻密な計画のもとに確実に目標を暗殺する。
「山の老人」はアラムート城から一歩も外に出なかったとされる。その素性が全くわからない「山の老人」。そしてその配下で動く無数の暗殺者たち。「山の老人」が、諸国の王から恐れられたとしても不思議ではないし、実際東方見聞録に記載されているような話が西洋で広く知られていた事からも、相当不気味な存在としてとらえられていたのは確かである。
その「山の老人」が、イスラム諸国を巡り歩いてこここそニザール派の本拠地にふさわしいと居を構えたのがアラムート城なのだ。一枚岩の巨岩からなり、周りには深い谷、守るのにここ程適した場所はなかった。そしてここがニザール派にとっての世界の中心、周りの勢力にとっては恐怖の中心になったのだ。


参考・引用文献:

書名 :完訳東方見聞録 1
シリーズ :平凡社ライブラリー 326
著者名 :マルコ・ポーロ/著 , 愛宕松男/訳注
出版者 :平凡社

書名 :井筒俊彦全集 第9巻
著者名 :井筒俊彦/著
出版者 :慶應義塾大学出版会

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